その部屋の扉を開けると、消毒液の匂いがした。
去年、今年と病室で嗅いだ匂いだ。
去年は母の、今年は祖母の病室で。

弟に「どうも、病室のこの匂いは慣れない」と言われたことがある。
私は病室に通うのに慣れてしまった頃で、消毒液特有の匂いも、そこから醸し出される病室特有の止まった空気の感覚にも慣らされていたので「そうかぁ、私は慣れた」と返した。
実際、消毒液の匂いを嗅ぎ慣れてしまい、当時は、本当に何とも思わなくなっていた。麻痺していたのだと思う。

祖母の病室に行ったのは、今年6月の終り。
私の中で生きた祖母の記憶は、そこで終わった。
あれから消毒液の匂いを嗅いでいない。

あれ以来、久しぶりに消毒液の匂いを嗅いだ。